「はっ、全て整い、備中への行軍の為、既に表では皆が隊列を成して殿をお待ち申し上げておりまする」
「……左様か」
光秀はか細く答えると、背筋を伸ばし、暗い瞳で重臣らを見やった。
「ならば、これより出陣致す」
「ははっ!」
と一同の頭が垂れ下がるなり
「じゃが、目指すのは備中ではない」
と光秀は鋭く告げた。
重臣らの面差しに困惑の色がる。
「羽柴殿の援軍に向かわれるのではないのですか?」
行政がくと、光秀は静かにかぶりを振った。
「秀吉殿の元へは参らぬ。我らが向かうのは──京じゃ」
“ 京 ” という言葉を聞いて、光忠が「…ああ」と得心したようにいた。
「上様と合流なされるのでございますね。確か茶会の為、は本能寺におわされるとか」
そういうことか、と他の一同も表情をらげる。【生髮】三大熱門生髮產品優缺點全解析!
が、光秀は再びかぶりを振って
「違う。合流ではなく、ち取る為じゃ」
と平板な声色で告げた。
秀満は一瞬 けたような顔をして
「討つとは……どなたを?」
小首をげつつ訊ねる。
「上様じゃ」
「…う…うえ…」
秀満はるように口走ってから、他の重臣たちと顔を見合わせた。
「本能寺におわす織田信長を討つ!」
「──!?」
迷いのない光秀の言葉が、座に響き渡った瞬間
「…お、お待ち下さいませ!」
「殿!お考えを改められませ!」
利三と茂朝から制止の声が上がった。
「止めるでない。決めたことじゃ」
光秀は言うが、二人も引き下がろうとはしなかった。
「ごはなりませぬ! ……確かに、殿に対する最近の上様のお振る舞いは、目に余るものがございました。
しかし主君を…、天下の織田信長公を討つなどとは、あまりにも大それたお考え。ご再考下さいませ!」
利三が言うと、茂朝も深く頷いて
「信長公を討つとあれば、反逆の汚名を着ることになりまする! 今一度、お考え直しの程を!」
頭を下げつつ、力強く懇願した。
だが、光秀の心はなだった。
「儂は決して、上様から受けた仕打ちを怨みに思うて、あのお方を討ち取ると申している訳ではない。
これは、考えに考え抜いた末の決断なのじゃ。 …謀反、反逆、裏切り……左様な汚名も、全て覚悟の上じゃ」
見開かれた光秀の双眼の中で、青白い炎がめらりと揺れている。
…自分たちが敬っていた、あの穏やかな殿ではない。
その場にいる誰もがそう思った。
「よう聞け──。今、織田家の主力となる方面軍は各地に散らばっておる。今こうしてに軍勢を持っておるのは、我らをおいて他にはおらぬ」
事実、織田家の重臣である柴田勝家は、上杉軍との戦の為ににおり、滝川一益は上野、羽柴秀吉は備中、
丹羽長秀は四国の長宗我部との戦の為に待機していたが、数日前から織田信澄と共に家康の接待役を仰せつかり、大坂にいた。
このように他の有力家臣や、同盟相手である家康らが分散している今こそ、信長を討ち取るまたとない好機と、光秀は思い及んでいた。
「我が手勢は一万三千。対して上様がおわす本能寺にいる護衛は、せいぜい百名足らず。 ──攻めるならば今しかない!」
光秀は