「こ、このような物を姫様にお見せ致すとは、何と無恥(むち)な」
「三保野殿。男女のご性行はお心得事にございまする。恥ずかしい事ではございません」
「されど──。まぁ…あのようなところまで」
三保野は言いながらも、興味深げに絵巻をチラチラと眺めている。
「初のお閨です故、何かとご不安も多ございましょうが、嫁いだおなごならば誰もが通る道。
殿が致すことに逆らわず、終始おしとやかになさっていれば、滞りなく済むことにございます」
不安顔の濃姫に、千代山はにこやかに告げた。5 男女款 tote bag 推薦、韓系穿搭 | MLB Korea 香港
「お身体のご相性が良ければ、殿のお心を掴むことも出来ましょうし、上手くいけば、この一夜で御子(おこ)が授かるやもしれませぬ」
「御子…!?」
自分が子を産むなど、まだ考えたこともなかった濃姫にとって、千代山の言葉はとても衝撃的だった。
「初めてのお床入りで御子が授かったとあれば、家中は歓喜に包まれましょう。
姫君様──。必ずそうなれとは申しませぬが、左様なお心意気で今宵のお役目に励まれませ。
殿のお世継ぎをお産みになられる事も、奥方としての大事なるご責務にございます故」
「……」
「よろしゅうございますな?」
笑顔で訊く千代山に、濃姫は少々気鬱そうな顔をして、緩く頭を下げるのだった。
夜4つ(午後10時頃)。
濃姫は、寝所にのべられた褥(しとね)の足元に控えて、じっと信長の訪れを待っていた。
複雑そうに顔を歪めながら、姫は何度となく嘆息を漏らしている。
夫との初めての同衾(どうきん)で、ただでさえ緊張しているところへ、あの卑猥な枕絵…。
それに子供のことまで言われたのでは、とてもではないが冷静になどなれなかった。
それに
《 もしも信長がまことのうつけであった時は、その刀で刺せ 》
という道三と交わした“短刀の誓い”もある。
今の濃姫には気にかかることが多過ぎて、どうしても一つのことに集中出来なかった。
第一、あの獣のような信長を、自分の細い腕で成敗することなどとても──…
「 ! 」
そう思った瞬間、濃姫はハッとなった。
『 しまった!父上様の短刀を…! 』
着替えが済んだら、密かに袖の中に隠し入れようと思っていた道三の短刀を、
千代山の指南に気を取られて、あろうことか御座所の衣装部屋に忘れて来てしまったのだ。
濃姫はただただ焦った。
何も今、絶対に短刀が必要だという訳ではない。
ただ相手はあの粗暴な信長、万が一という事があるかもしれない。
それにあれは大切な守り刀でもある。
まるで中に父の霊力が封じ込めているかのように、刀を身に帯びていると、不思議と勇気が湧いてくるのだ。
特に今は最も心が乱れている時。
尚更あの短刀を手元に置いて、心を落ち着けたかった。
『 もうそろそろ信長殿が参られる刻限じゃが、あのお方が時間通りに現れた試しはない 』
『 駆け足で御座所まで行って、また急いでこちらに戻ってくれば、きっと間に合うであろう 』
そう思った濃姫は
『 寝所の出入口には控えの侍女たちがおる…。ここは裏から出る他あるまい 』
寝所の裏口から外に出て、中庭を突っ切って自身の御座所へ戻ろうとした。
が──
「殿のお成りにございます!」
不運にも、信長の訪れを知らせる声が外から響いてきた。
何故こんな時に限って、しっかりと時間を守るのか…。
濃姫は愕然となり、へなへなとその場に頽(くずお)れた。
しかし、こんな事で落ち込んでいる訳にもいかない。
濃姫はすぐに居住まいを正すと、信長を迎えるため、出入口の戸襖に向かって深々と頭を垂れた。