近藤は頷いたが、その続きが土方には予想できた。
美海も顔をあげ、見ている。
「そこも、官軍に抵抗してたんだが、一緒に合流しないかって。どう?」
合流……。
考えはない。
だが、ここでいきなり知らない男と組むのも気が引ける。
土方は永倉、原田の態度が妙によそよそしく感じられた。
実は、実際にはそんなこともなかったのだが、永倉、原田には、近藤の態度が偉そうに見えていた。
近藤は見た目から入るところがあり、大名の真似事のようなことは多々あった。
そのせいもあってますます感じられたのだろう。
───俺らは家臣なのか?
と。
隊を乱さまいと口にはしなかったが、勝てない戦の苛つきからか、それはピークに達していた。
「俺は……すまん」
「わかった」
永倉は頷いた。
沸々と気持ちは昂るのだが、それを抑え、冷静に答える。【生髮】三大熱門生髮產品優缺點全解析!
きっとこれ以上行動を共にしていては気が持たず、仲間割れしていただろう。
それならここで静かに別々の道を歩み始める方がいい。
ここらが潮時だ。
そう思った。
「俺は、新八と行く。土方さんは?」
原田が言った。
「俺は会津に行く」
「……会津?」
一同ポカンと口を開けている。
「俺はもう江戸では戦えない」
今回のことでわかった。
旗本は慶喜に逆らわないから戦わない。
戦意もくそもない。
江戸は駄目だ。
「もちろん、しんぱっつぁんも左ノもここでやってもらって構わない。もう組織はないのだ。ただ、俺はここでは戦わない」
「じゃあどうすんだ?」
原田は複雑そうな顔で聞いた。
「下総の流山にまずは陣を置く。そこで手始めに募兵をしようと思っている」
それからの案も土方は話した。
「そうか。総司、美海は?」
もうなんとなくわかっている。
「私は、近藤さんに着いていきます」
やっぱりな。
永倉は小さく笑った。
あれだけダメージを受けてもまだ意見を変えない沖田になんだか嬉しくなった。
「私も…すいません…」
美海は俯いた。
「謝んな。それがお前の選んだ道だろ」
原田がくしゃくしゃと頭を撫でた。
「本当、お前が来てから、ますます楽しくなったよ。ありがとう。頑張れよ」
原田はそう言って笑った。
いつもは私が出張なだけで号泣してたくせに。
私も…強くならなきゃ…。
「鉄も、土方さんについて行くよな」
永倉の言葉に市村は申し訳なさそうに頷いた。
永倉には、いつも助けてもらっていた。
伏見だってずっと一緒にいてくれたため、苦渋の決断だった。
「じゃあ、俺らは会津に。しんぱっつぁんと左ノは江戸に。これでいいな?」
近藤が尋ねた。
「あぁ」
二人は頷いた。
なんだか淋しそうにも哀しそうにも見える。
「気にするな。もう皆、自分の道を歩めばいい。
今までごめんな。二人には無理させてばっかりだった。時には、自分の気持ち、圧し殺してくれてたよな。
二人がいなきゃ、ここまでこれなかった。
これからは、自分の意思で、自分の自由にやっていってくれ。ありがとう」
「楽しかったぜ。こちらこそありがとう」
近藤は永倉、原田と握手した。
原田は少し涙ぐんでいたかもしれない。
あまりわからなかった。
「じゃあ、俺らは行くな」
土方が立ち上がった。
「あぁ…」
名残惜しそうに永倉が呟く。
ぞろぞろと玄関を出た。
「総司!美海!」
最後に出る二人を呼び止めた。
美海も沖田も振り向く。
「お前ら、いつまでもそんな調子で行くなよ」
永倉が困ったように笑った。
「たった一回負けたからなんだ。次勝てばいい話だろ。そう隊士に言ったらしいな。総司。
失敗は成功の元っていうだろ?大丈夫。次は勝てる。俺が言うんだぜ?」
原田が沖田を小突いた。
「……しっかりやれよ」
永倉が美海、沖田の背中を押した。
「お別れだ」
「はっ、全て整い、備中への行軍の為、既に表では皆が隊列を成して殿をお待ち申し上げておりまする」
「……左様か」
光秀はか細く答えると、背筋を伸ばし、暗い瞳で重臣らを見やった。
「ならば、これより出陣致す」
「ははっ!」
と一同の頭が垂れ下がるなり
「じゃが、目指すのは備中ではない」
と光秀は鋭く告げた。
重臣らの面差しに困惑の色がる。
「羽柴殿の援軍に向かわれるのではないのですか?」
行政がくと、光秀は静かにかぶりを振った。
「秀吉殿の元へは参らぬ。我らが向かうのは──京じゃ」
“ 京 ” という言葉を聞いて、光忠が「…ああ」と得心したようにいた。
「上様と合流なされるのでございますね。確か茶会の為、は本能寺におわされるとか」
そういうことか、と他の一同も表情をらげる。【生髮】三大熱門生髮產品優缺點全解析!
が、光秀は再びかぶりを振って
「違う。合流ではなく、ち取る為じゃ」
と平板な声色で告げた。
秀満は一瞬 けたような顔をして
「討つとは……どなたを?」
小首をげつつ訊ねる。
「上様じゃ」
「…う…うえ…」
秀満はるように口走ってから、他の重臣たちと顔を見合わせた。
「本能寺におわす織田信長を討つ!」
「──!?」
迷いのない光秀の言葉が、座に響き渡った瞬間
「…お、お待ち下さいませ!」
「殿!お考えを改められませ!」
利三と茂朝から制止の声が上がった。
「止めるでない。決めたことじゃ」
光秀は言うが、二人も引き下がろうとはしなかった。
「ごはなりませぬ! ……確かに、殿に対する最近の上様のお振る舞いは、目に余るものがございました。
しかし主君を…、天下の織田信長公を討つなどとは、あまりにも大それたお考え。ご再考下さいませ!」
利三が言うと、茂朝も深く頷いて
「信長公を討つとあれば、反逆の汚名を着ることになりまする! 今一度、お考え直しの程を!」
頭を下げつつ、力強く懇願した。
だが、光秀の心はなだった。
「儂は決して、上様から受けた仕打ちを怨みに思うて、あのお方を討ち取ると申している訳ではない。
これは、考えに考え抜いた末の決断なのじゃ。 …謀反、反逆、裏切り……左様な汚名も、全て覚悟の上じゃ」
見開かれた光秀の双眼の中で、青白い炎がめらりと揺れている。
…自分たちが敬っていた、あの穏やかな殿ではない。
その場にいる誰もがそう思った。
「よう聞け──。今、織田家の主力となる方面軍は各地に散らばっておる。今こうしてに軍勢を持っておるのは、我らをおいて他にはおらぬ」
事実、織田家の重臣である柴田勝家は、上杉軍との戦の為ににおり、滝川一益は上野、羽柴秀吉は備中、
丹羽長秀は四国の長宗我部との戦の為に待機していたが、数日前から織田信澄と共に家康の接待役を仰せつかり、大坂にいた。
このように他の有力家臣や、同盟相手である家康らが分散している今こそ、信長を討ち取るまたとない好機と、光秀は思い及んでいた。
「我が手勢は一万三千。対して上様がおわす本能寺にいる護衛は、せいぜい百名足らず。 ──攻めるならば今しかない!」
光秀は
お慈は坂氏の訝しげな眼差しをものともせずに受け止めると
「私──時折 思うことがあるのです」
ふいに静かな口調で切り出した。
「もしも、信長様が美濃との戦に勝利出来ず、このままこの小牧山で燻り続けてゆくようであれば、いっそのこと……美濃の龍興殿に寝返った方が良いのではないかと」
「 !? 」
「亡き道三殿より続く美濃の強大な勢力は、今も尚健在にございます。新たに城を築いたところで、ひと月やふた月足らずで勝てるような相手ではございませぬ。
万が一にも、殿が戦に敗れるような憂き目にお合いするようなことにでもなれば、その時は我ら側室とて共倒れではございませぬか」
「……」https://technewstop.org/botox-aftercare-essential-tips-for-optimal-results/
「坂様も、来るべき時の備えだけは、しておいた方がよろしいかと」
「…備え…」
お慈は嫣然と笑ってみせると、冷や汗をかいている坂氏の耳元に、そっと囁きかけた。
「私に一つ、良い考えがあるのですよ」
一時は回復に向かったかに見えた天候も、濃姫たちが一旦御殿に戻るや否やまた急激に崩れ始め、
半刻もすると、桶の中の水をひっくり返したような激しい大雨が小牧山全体を襲った。
これにより重陽の祝宴は完全にお開きとなった訳だが、視界を遮るほどの雨と、地面の泥濘により、
集まった側室たちは私宅へ戻ることが叶わず、急遽 濃姫たちが住まう奥殿内に部屋が用意され、
思いがけずも、信長の妻妾が同じ屋根の下で一夜を明かす事態となったのである。
だが、同じ日の夕刻。
もう一つの思いがけない事態が、濃姫を更にも増して驚かせることとなった。
「──お方様!何卒、あのお慈殿とやらをきつくご処罰下さりませ!」
「あのようなおなごが殿の愛妾の座におられるなど、危険過ぎまする!」
「私も皆様と同じ意見にございます!」
「私もでございます!」
何と、お慈の処分を求めて、側室の坂氏、お養。
そしてお澄、お葉(ふさ)ら宴に招いた女たちが、皆 雁首(がんくび)を揃えて濃姫の御座所に乗り込んで来たのである。
部屋の上座に座す濃姫は、そのあまりの勢いに、傍らの三保野やお菜津と共に若干たじたじとなっている。
「…お、落ち着いて下さりませ皆様方!ともかくお静まりを!」
騒ぐ側室たちを三保野が一旦落ち着かせると
「して、それはまことなのでございましょうか? あのお慈様が、美濃へ寝返りを図ろうとしている謀反人だというお話は」
お菜津が冷静な口調で問い返した。
下座に控える一同は、力強く首をひと振りする。
「間違いございませぬ! 昼間、例の雷雨によって宴が中断してしまった折に、木の下で難儀を凌いでいた私にお慈殿が申したのです。
“ 万が一、殿が美濃との戦に敗れるようなことになれば、我ら側室も共倒れになる ” “ 美濃の龍興殿に寝返った方が良い ” と!」
「そのような遺憾なことを、あのお慈殿が!?」
坂氏の告白に、三保野はわっと双眼を丸くする。
「それにこうも申しておりました。 “ 自分には美濃に手引きしてくれる者がおる故、こちらの心根一つで敵になるも味方になるも自由 ”。
“ 今なれば、すぐにでもここから抜け出し、安全に稲葉山の城まで参れる特別な手段がある故、決断するならば早い方が良い ” と」
「 ! 何と…、何ということじゃっ」
三保野は思わずうち震え
「それが事実だとすれば、お方様、お慈様はもしや……龍興殿が送り込んだ間者なのでは!?」
上位の二人からやや距離を取った位置には、豪華な唐織の打掛を纏ったお慈も座していたが、
その傍らには、他にも数名の見目麗しい女たちが、これまた艶やかな装いで控えていた。
「───お慈様のすぐ横に控えておられるお方がお妙(たえ)殿。その次がお澄(すみ)殿。更にその隣におられるお葉(ふさ)殿は、稲葉氏のご親類にあたられるお方と聞き及びまする」
「皆々間違いなく、殿のお手が付いた者たちなのじゃな?」
「御意にございます。…というても、どなた様も一度きりのお戯れのお相手に過ぎぬようでございますが」
「一度でも二度でも関係ありませぬ。いずれ御子を成し、殿の側室となる可能性のある者たちであるのならば、顔を知っておかねば」
濃姫は、背後に控える三保野と小声で語り合いながら、お慈の横に座している女たちの顔を順々に眺めた。
まるで女たちの心の内を見極めようとしているような、何とも鋭い目付きで。
「義姉上様、如何なされました? 5 男女款 tote bag 推薦、韓系穿搭 | MLB Korea 香港 そのように厳しいお顔をなされて」
ふいに、隣に座していたお市に声をかけられ、濃姫はハッとなって美しい義妹の面差しに目をやった。
「何かお気にかかることでもあるのですか?」
「…いえ、何でもありませぬ。少し物思いに耽っていただけです。お気になされませぬよう」
「ならば良いのですが」
お市はそう言って微笑むと
「なれど義姉上様、本当に良いのでしょうか? 美濃と相争うている最中だと申しますのに、私たちだけでこのような賑々しい宴を催してしまって」
少し不謹慎なのではないかと、懸念の表情を浮かべた。
「心配には及びませぬ。殿のお許しならば、しかと頂戴致しております故」
濃姫が笑顔で応じると、報春院もうんうんと頷いて
「戦闘の最中というのならばいざ知らず、今は新たな本拠に住まいを移し、家臣たちも、また民たちですら、
あちらこちらで祝い酒を酌み交わしておる時分じゃ。肝心の我らが楽しまずして如何する?」
銚子を手に取り、目の前の杯になみなみと御酒を注いだ。
「なれど……兄上様の側室方までお招き致すというのはどうなのでしょう?
御子を成されたお方々はともかく、一度きりの、お戯れのお相手までも同席しているなんて」
どこか腑に落ちないところが多く、お市は怪訝の表情を崩さなかった。
「それも殿のお許しの上です。一夜だけの相手と軽んじ、粗略に扱い続けるのは、意気地のなき男のすることだと申されてな」
「ですが…」
「それにこのような折でもなければ、殿の愛妾方をお招きする機会などございますまい。
理由をつけて一人一人を城に招くよりも、こうして一挙に集まってくれた方が、好都合ですしね」
「好都合?」
「……ぁ…いえ。今まで会うたことのない方々のお顔が一度に知れて良かったと、そういう意味です」
濃姫は俄に浮かんだ焦りの表情を押し隠し、苦笑に近い作り笑顔で答えた。
そうこうしている内に踊り子たちによる舞が終わり、演目が管弦による演奏へと変わった。
列席する女たちの前には、祝いの膳や菓子などが運ばれ、皆々演奏を聞きながら、嬉しそうに箸をつけてゆく。
報春院も酒のせいか、この日は一段と機嫌が良く
「せっかくの節句祝いの席じゃ。側室らばかり見ておらず、お濃殿もご一献如何です?」
自ら銚子を手に持ち、濃姫に酒を勧めた。
「義母上様手ずからのお酌とは、忝(かたじけ)のう存じます。では…一献だけ」
姫はすかさず杯を手に取ると、有り難くそれを頂戴した。
そんな時
「まぁ、風が出て参りましたな」
「こ、このような物を姫様にお見せ致すとは、何と無恥(むち)な」
「三保野殿。男女のご性行はお心得事にございまする。恥ずかしい事ではございません」
「されど──。まぁ…あのようなところまで」
三保野は言いながらも、興味深げに絵巻をチラチラと眺めている。
「初のお閨です故、何かとご不安も多ございましょうが、嫁いだおなごならば誰もが通る道。
殿が致すことに逆らわず、終始おしとやかになさっていれば、滞りなく済むことにございます」
不安顔の濃姫に、千代山はにこやかに告げた。5 男女款 tote bag 推薦、韓系穿搭 | MLB Korea 香港
「お身体のご相性が良ければ、殿のお心を掴むことも出来ましょうし、上手くいけば、この一夜で御子(おこ)が授かるやもしれませぬ」
「御子…!?」
自分が子を産むなど、まだ考えたこともなかった濃姫にとって、千代山の言葉はとても衝撃的だった。
「初めてのお床入りで御子が授かったとあれば、家中は歓喜に包まれましょう。
姫君様──。必ずそうなれとは申しませぬが、左様なお心意気で今宵のお役目に励まれませ。
殿のお世継ぎをお産みになられる事も、奥方としての大事なるご責務にございます故」
「……」
「よろしゅうございますな?」
笑顔で訊く千代山に、濃姫は少々気鬱そうな顔をして、緩く頭を下げるのだった。
夜4つ(午後10時頃)。
濃姫は、寝所にのべられた褥(しとね)の足元に控えて、じっと信長の訪れを待っていた。
複雑そうに顔を歪めながら、姫は何度となく嘆息を漏らしている。
夫との初めての同衾(どうきん)で、ただでさえ緊張しているところへ、あの卑猥な枕絵…。
それに子供のことまで言われたのでは、とてもではないが冷静になどなれなかった。
それに
《 もしも信長がまことのうつけであった時は、その刀で刺せ 》
という道三と交わした“短刀の誓い”もある。
今の濃姫には気にかかることが多過ぎて、どうしても一つのことに集中出来なかった。
第一、あの獣のような信長を、自分の細い腕で成敗することなどとても──…
「 ! 」
そう思った瞬間、濃姫はハッとなった。
『 しまった!父上様の短刀を…! 』
着替えが済んだら、密かに袖の中に隠し入れようと思っていた道三の短刀を、
千代山の指南に気を取られて、あろうことか御座所の衣装部屋に忘れて来てしまったのだ。
濃姫はただただ焦った。
何も今、絶対に短刀が必要だという訳ではない。
ただ相手はあの粗暴な信長、万が一という事があるかもしれない。
それにあれは大切な守り刀でもある。
まるで中に父の霊力が封じ込めているかのように、刀を身に帯びていると、不思議と勇気が湧いてくるのだ。
特に今は最も心が乱れている時。
尚更あの短刀を手元に置いて、心を落ち着けたかった。
『 もうそろそろ信長殿が参られる刻限じゃが、あのお方が時間通りに現れた試しはない 』
『 駆け足で御座所まで行って、また急いでこちらに戻ってくれば、きっと間に合うであろう 』
そう思った濃姫は
『 寝所の出入口には控えの侍女たちがおる…。ここは裏から出る他あるまい 』
寝所の裏口から外に出て、中庭を突っ切って自身の御座所へ戻ろうとした。
が──
「殿のお成りにございます!」
不運にも、信長の訪れを知らせる声が外から響いてきた。
何故こんな時に限って、しっかりと時間を守るのか…。
濃姫は愕然となり、へなへなとその場に頽(くずお)れた。
しかし、こんな事で落ち込んでいる訳にもいかない。
濃姫はすぐに居住まいを正すと、信長を迎えるため、出入口の戸襖に向かって深々と頭を垂れた。