なるべく足音と気配を消してゆっくりと近付く。
『寝てんのか?』
正面に立っても顔を上げる気配もなく,すぅすぅと寝息のようなものが聞こえる。いや,寝息だ。
「ったく。隙だらけだ馬鹿!」【生髮藥】一文拆解口服生髮藥副作用丶服食見效需時多久? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
がら空きの脳天に拳骨を一発。
「いっ!?」
流石に顔を上げて頭のてっぺんを両手で押さえて何が起きたのかと目を見開く。
「こんな所でうたた寝なんかしやがってどこまで馬鹿なんだお前は。」
盛大な溜め息をついて呆れた眼差しで見下ろした。
その目には口を半開きにして見上げてくる間抜けな顔が映る。
「ひ…じ…かた……さん?」
「もう俺の顔忘れたか。それにこんな所で何してやがる。」
また襲われるだろうが。久しぶりの再会も台無しだと鼻で笑った。
「いやぁ…遊びに来たけど誰もおらんくて。待ってたら誰か来るかなって思ってたけど眠くなって来てもて…。」
すみませんと弱々しく笑う顔。笑いながら頬を掻く仕草。久しぶりに交わす会話。耳をくすぐる声。
全てが以前の三津そのもので,土方の胸を締め付けた。
「……寝れてないのか。」
目の下にクマが出来てる気がした。あの日の出来事が怖くて眠れないのかと心配になる。
「昨日の夜は寝付きが悪かっただけで。土方さんこそこんな所で何してるんです?遊びに来てくれたんですか?」
無邪気に笑うこの顔を見るのはいつぶりだろうか。そう思うと土方の手は自然と三津の頭に伸びていた。
「土方さん?」
首をかしげて見上げていると頭を鷲掴みにされ,これでもかと力を込められた。
「いだだだだ!!!止めて!!!止めて!!!」
「元気は元気か。」
じたばたする姿に満足して手を離した。いきなり何するんだと口を尖らす表情もいとおしく思えた。
「もう常に周りに俺らがいる訳じゃねぇんだ。もっとしっかりしろ。」
身近に置いときながら最後の最後で守れなかった奴が言う台詞でもないなと自嘲しつつも吐き捨てた。
「あれ?この前斎藤さん来てましたよ?」
「あ?斎藤?」
土方の眉間に深いシワが刻まれた。
それを見て,じゃああれは監視じゃなかったのかと三津は一人でそうかそうかと頷いた。
『斎藤の野郎抜け駆けか…。』「斎藤がお前に何の用だ。」
別に斎藤がどこで何してたって構いやしない。問題を起こす訳でもなく,総司の様に仕事をほっぽりだして遊んでる訳でもない。だが気になる。
「私に用は無かったと思いますよ?初詣に来てはったのを宗太郎が見つけて…。」
『初詣な…。わざわざこっちの方まで。』
やはり三津に会いに来たのだと確信して舌打ちを一つ。
「まぁせいぜい自分の身は自分で守りやがれ。じゃあな。」
「えっもう帰るんですか?」
素っ気なく踵を返すのを見て眉を八の字に垂れ下げた。
「また俺の女と勘違いされたかねぇだろ。」
『そんな顔すんじゃねぇよ…。』
手を袖口に突っ込んでこれ以上三津に触れないように自制した。本当なら散歩くらい誘ってやりたいが,そうすると必ず不逞浪士に絡まれる。
三津の為を思っての事だが,あまりにもしょんぼりとするもんだから自分が悪者みたいで納得がいかない。
「……気が向いたら八木さん所のガキ共に会いに行ってやれ。あれからずっとお前を心配してる。」
三津は一瞬見開いてからすぐにやんわりと目を細めた。
「はいっ!」
「まぁ迷わず来れたらな。」
こいつは来るなと確信して土方は背を向けて歩き出した。
「あっ,待って!」
小走りで追いかけてくるものだから,そんなに俺との別れが名残惜しいのか?と口元が緩みそうになる。
「何だ俺は忙しいんだ。」
眉間にシワを寄せて振り返った。だけど目に映った三津は不安気に土方を見つめていた。
「あのっ!あの…お父さんと男の子は…。」
どうしていますかとか細い声で問いかけた。
変に何かを期待した自分が恥ずかしくて土方はより険しい目付きになる。
「あぁ…。あの親子か。お前を騙した罰として男の嫁を女中代わりに勤めさせたけど三日ともたずに逃げたしやがったさ。どっかで大人しく暮らしてるだろうよ。」
三津はそんな事になってたのかとひきつった顔で笑った。
「おたえさんは元気ですか?」
気になり出したら仕方がない。思い付く事はぽんぽん口に出していると,土方の手が伸びてきて三津の腕を掴んだ。
「そんなに気になるなら帰って来やがれ。」
一体何を要求するのか。
誰もが固唾を飲んで見守った。
道場が妙な静けさに包まれた時,斎藤の視線が隣りに逸れた。
「副長の小姓を一日お借りしたいのですが。」
「え?」 tote bag 香港
全員の視線は一気に三津に集中する。
三津は何?と小首を傾げる。全然話しを聞いてなかった。
『嘘…どう言うこと?』
総司は呆然と立ち尽くした。
三津以上に衝撃を受けて,竹刀を持つ手がだらりと力無くうなだれる。
「ん?私が何?」
三津は自分を指差し,何事ですか?ときょろきょろ目を動かす。
「おう,構わねぇ。明日の昼まで貸してやるよ。好きにしな。」
土方は三津の頭の上で二回手を弾ませてから斎藤に差し出した。
「ありがとうございます。では行こうか。」
斎藤は三津の肩を軽く叩いて道場を出た。
とりあえずついて行けばいいらしい。
『斎藤さんについてたらいいって事?』
それぐらいは何ら問題ない。むしろ有り難いんじゃないか?
どう考えても土方と斎藤を比べたら斎藤の方が優しいに決まってる。
って事は拳骨からも解放される。
三津の目がらんらんと輝き,口元はにんまりと笑う。「では小姓の役目果たして参ります!」
この上ない笑みで今にも歌い出しそう。三津は跳ねるような軽い足取りで斎藤の後について行った。
『そんなに嬉しいのかよ。油断しきった顔でついて行きやがって。
俺じゃ不満だって言ってるようなもんじゃねぇか。
戻って来たら覚えてやがれ。』
貸してやったのに釈然としない。
土方は仏頂面を引っさげ,大股で道場を出た。
「お三津ちゃんありかよ。それなら俺だって参加すれば良かった。」
「斎藤先生も酒より女かぁ。」
三津を貸して欲しいだなんて斎藤も男だ。
一日一緒だなんて羨ましいと土方の時では言えずにいた事を口にしていると,
「残念ですが参加した所でみなさんに勝ち目はありませんよ。
どうです?今から鍛えてあげましょうか?」
隊士たちの背後に冷たい空気が漂う。
「さ…さぁ!汗を流しに行くとするか!」
その声の主が誰で,どんな顔をしているかは背を向けていても分かる。
殺気に命を奪われる前に逃げ出そうとしたが,
「逃がしませんよ?」
不逞浪士を逃がさない総司がたかが平隊士を逃すはずはない。
『三津さんを指名して何をする気なんでしょうか?
邪な気持ちは叩き潰しますから。』
喜んで尻尾を振りながら斎藤について行った三津は部屋の片隅に鎮座していた。
汗を流して来るから部屋で待ってろ。と言う斎藤の指示に大きく頷き,軽やかに廊下を歩いて新たな主人の部屋へ向かった。
「お邪魔しまーす。」
こうして中に入り斎藤の帰りを待った。
大人しく待っていたのだが,
「あんたは空気か。」
帰って来るなり斎藤の表情は曇り怪訝そうに見下ろしてくる。
『何故気配が分からん…。』
いると分かっていたのにいる気配がしなかった。
とりあえず正面に腰を据え,無言で観察を始めた。
「あのぉ…。」
何がしたいか分からず苦笑いで首を傾げた。
「不思議で仕方ない。お前だけ気配が分からんのだ。」
腕を組んで唸る斎藤を前に何故自分を要求したか判明した。
「あぁ!一日一緒にいれば分かるようになりますかね?
それとも分からないまま曲がり角でぶつかる運命ですかね?」
ぽんと手を打ち,悪戯っぽくペロッと舌を出す。
すると今まで表情一つ変えなかった斎藤の口元が微かに笑んだ。
『あ,笑った。』
の年齢に例えれば、三十三歳から四十歳くらいまでの間である。ということは、副長より上で島田よりかは下ということになる。
もちろん、永倉と野村、それから俊春とおれよりかは上であることはいうまでもない。
相棒が俊春を子ども扱いしているところはウケるが、なにゆえおれのことは子ども扱いしてくれないんだろう?
ああ、そうか。おれのほうが俊春よりしっかりしているからか。
ってかんがえた瞬間、生髮藥副作用 おれの膝のうしろになにかがあたった。その不意の接触に、がくっと膝が折れてしまった。
「な、なんですか、ぽち?なにゆえ、膝カックンをやってくるんです?」
カックンされた膝を立て直しつつだけうしろへ向け、俊春にクレームをつけてしまった。
「おぬし、わたしに喧嘩をうっておるのか?」
「はい?なんておっしゃいました?」
「ぽちは、「ファック・ユー」っていったんだよ」
かまってくれなくってもいいのに、野村がいらぬことを口ばしってきた。
「ふむ。利三郎、いまのはなかなかグッジョブであったぞ」
そして俊春は、「ファック・ユー」という教育上よくないスラングを容認どころか称讃する。
「なにいってるんです、ぽち。あなたに喧嘩をうるわけないでしょう?」
「きこえておったのではないか。なにゆえきこえぬふりをし、わたしにわざわざ二度も三度もいわせようとするのだ?」
「あなたの質問は、いつもツッコミどころ満載すぎるんですよ。ってか、想像の斜め上どころか宇宙レベルのたかさをいきまくっているんです。おれの耳が悪いのか理解力がないのか?それとも、その問いはなにかの伏線で、自分でなにかを導きださねばならぬのか?いつも迷ってしまうのです。つまり、意味がわからなさすぎるんです」
俊春のかっこかわいいをしっかりとみすえ、いっきにまくしたてた。
そのとき、またしても相棒が二人の間にわりこんできて、お座りしてからおれをめっちゃにらんできた。
その狼面、怖すぎだろう……。
「往来でなにやってんだ。主計のヒステリックな声が、三里四方に響き渡ってるぞ」
「いや、土方さん。いくらなんでも、三里四方ってのは盛りすぎであろう」
永倉が、副長のいわれなき誹謗中傷をすかさずツッコむ。
ヒステリック?盛りすぎ?
新撰組は、どんどん現代チックな職場環境になってきている。
今日は数か月ぶりの公休日なのに、「すぐに出社しろ」的な鬼LINEがくるようになるのも、そう遠くないことかもしれない。「だって、ぽちはいっつもどうでもいいようなことなのに、突拍子もない問いを投げかけてくるんです。ゆえに、思わずきき返してしまうのです。ぽちはおれがなにゆえきき返しているのかわかっているくせに、難癖をつけるんですよ」
担任の先生に、同級生との喧嘩のいい訳をしているみたいだ。
「ほう……」
副長は、イケてるに半信半疑ってか、ぶっちゃけ疑いまくっている表情を浮かべた。すらりときれいな指先で、ムダに形のいい顎をさすりつつ、俊春へとを向ける。
すると、俊春は気弱そうな、それでいていまにも泣きだしそうな様子でうつむいたではないか。
な・・・・・・・。
一方的に主計にいじめられてる感満載の、この無言劇はなんなんだ?
「くーん」
父親が、そんな息子を心配するのは当然である。相棒は、つやつやとうるおいのある鼻先を俊春のだらりと下げられている左掌に押しつけ、慰めている。
「ストレスってやつか?」
副長のがまた、おれの方へと戻ってきた。
長州藩の軍服も、ムダにキマッている。
「ストレスって……。おれのヒステリーがですか?ってか、ストレスってよくご存じですね」
副長に『ストレス』、なんて言葉を教えたのは、いったいだれなのか?
容疑者は二人である。しかも、その二人ともが、日頃からおれを陥れようと爪牙をみがいている。
「ストレスがたまったら、自身だけでなく周囲にも影響を及ぼすのであろう?ならば、ストレスフリーの環境にすることを、あるいは環境に身をおくことを心がけるべきだな」
マジなでいってきた島田の言葉に、ヤバい系の薬でトリップしたみたいにぶっ飛んでしまった。
もちろん、そんな薬をやったことはない。ゆえに、ただの想像での比喩表現である。
やはり、おれはいつの間にか現代に戻っているのか?いや、寝落ちしている?これは、夢なのか?
きっとそうだ。目が覚めたら、以前のように古き良き時代の新撰組に戻っているにちがいない。
「ああああ?おかしいじゃねぇか。なにゆえ、主計にストレスがたまるんだ?おれがいいたかったのは、主計がぽちにストレスを与えてるってことだ」
「いや、土方さん。それだったら、ストレスじゃなくってプレッシャーってやつであろう?でもまぁ、主計はいかにもストレスがたまらなさそうってだよな」
「なんでですか、永倉先生。おれはこれでもストレスで胃をやられ、血便や血尿に悩まされ、食欲不振になったり逆に過食したり、髪の毛が抜けたり頭痛がしたりと、「ストレス・ザ・マン」と二つ名をつけられるほどストレスを抱えまくっていたんです」
関西人としては、ここは盛りまくって笑いをとるところである。
「ぽち、気にするな。馬鹿はスルーしておけ。イジメにあうようなら、おれが倍返しどころか、万倍返してやるからよ」
ちょっ……。
副長に「倍返し」なんて教えたのも、さっきとおなじ容疑者にきまっている。
副長に慰められた俊春は、
なりに、挨拶やみかじめ料が必要であろう。テキ屋や大道芸人の常識ではないのか?
「それにしても、じつに独創的な飴細工ですな」
俊冬は男の答えをスルーし、並んでいる飴細工を一つ一つガン見する。「はは・・・。商売をはじめたばかりでして・・・」
若い方が、肺癌篩查 苦笑交じりに応じる。若い方の男も、年配の男同様、額にムダに玉のような汗が浮かんでいる。そして、ムダに揉み手をしている。
「それはそれは・・・。なれど、一人前の飴職人の技量は、かなりのものですぞ。すくなくとも、「これはなにか」がちゃんとわかる程度のものは、つくれるはずでございます」
俊冬は、やわらかい笑みを浮かべる。それから、子どもらに提案する。
「鉄、銀。ぽちが飴細工を披露してくれる。なんでも好きなものをいいなさい」
とうとう、俊春の二つ名はぽちになってしまったらしい。
「わたしは、金魚がいい」
「では、わたしは雉がいい」
市村、それから田村は、容赦なく難易度の高いものを要求する。
無言でうなずく俊春。それから、脚でふいごを踏み、準備にはいる。
とんだなりゆきに、飴売りの二人は声もない。ただ呆然としている。
俊春は、手際よく作業をすすめてゆく。
飴細工の作業工程は、「YOUTUBE」でみたことがなかったが、それでも俊春の作業が手際がいいことはわかる。圧巻は、葦のさきから空気を吹き込んだのち、和鋏で形を整えてゆく作業である。
ちいさな鍋で熱された飴の塊に、の宿る瞬間である。
所要時間わずか数分。あっという間に、金魚と雉ができあがった。
「ほー」
斎藤と二人、ほれぼれと眺める。子どもらは、大興奮である。
本職をみると、かれらですらうっとりみているではないか。
「ぽちは犬ゆえ、おおざっぱであるな」
俊冬の謎解釈。
「悪うございました、たま。どうせ、猫のほうが素晴らしいのでしょうとも」
そして、俊春の謎ヨイショ。
双子は、異世界転生で飴職人もやっていたというわけだ。
それにしても、いまにも泳ぎだしそうな金魚と、空へはばたきそうな雉である。このクオリティなら、ここで商売するよりかは、ちゃんとした店をかまえたほうがいいにきまっている。
「「でこちんの助」殿は、お元気か?」
不意に、俊冬は飴売りたちのほうへ体ごと向き直り、尋ねる。
「たま。だから、「でこぴん野郎」と申しておりましょう」
そして、使った道具をきちんと並べなおしながら、俊春が横槍をいれる。
「馬鹿を申すな、ぽち。「でこちんの助」と、あれほど申しておるではないかっ」
「なんですと?あれはどうみても、「でこぴん野郎」ではありませぬか?」
「「でこぴん野郎」などと・・・。かような無礼な二つ名があるかっ!」
キレまくる俊冬。とつじょはじまった兄弟喧嘩に、子どもらも飴売りたちもひいている。
「でこちんの助」と「でこぴん野郎」の論争再びである。
それらは、長州の大村益次郎のことを指している。
「なんと・・・」
俊春は、泣きそうなで兄にちかづく。
「無礼なとは、どういう了見で申されておいでです、たま?「でこぴん野郎」とは、最大限の敬意を表してのこと。たまこそ、「でこちんの助」などと、馬鹿にしまくっているではありませぬかっ」
切々と訴える、俊春。
「おいおいおい、ぽちよ。「でこちんの助」こそが、古今無双の二つ名。あのでこは、それ以上でも以下でもないわっ!愚か者めが」
どんどん激昂する俊冬。このままだと、どーでもいい論争で弟をぶっ飛ばしそうな勢いである。ってか、これってなにかオチがあるのか?
「愚か者?」
俊春は、斎藤とおれと相棒へ、すがるようなで訴えてくる。そして、さらには飴売りたちへも・・・。
「このわからずやのたまに、あなた方からも申してやってください」
と、懇願がおわるよりもはやく、飴売りたちは地面におさえつけられている。
刹那とか瞬きとか、そんな表現などながすぎるくらい、超絶神速のできごとである。
「「でこぴん野郎」にじかに会い、命じられたのであろう?なれば、「でこちんの助」とどちらがふさわしいか、申すまでもないな?」
俊春は、右掌では若い方の男の項を、左掌では年配のほうの男の項をそれぞれ握り、片膝ついて地におさえつけている。
その声は、これまでとちがって冷酷な響きがこもっている。俊春の掌におさえつけられながら、飴売り、いや、長州の間者たちは抵抗どころか指一本動かせないでいる。
「なれぬ間者など、せぬほうが身のためだな」
俊冬は、地におさえつけられている間者たちの
一方で、桜司郎は布団の中で暗い表情をしていた。これまで見てきた数々の女達の涙を思い浮かべる。久坂を愛した妓、明里、琴、歌──。
ウメのことはよく知らないが、それでも同じ性を持つ者としてはその思いが理解出来た。愛する人の身を案じ、自身の思いを押さえ付けて送り出した心。突然上洛の話しを聞かされた時は、どれほど辛かったのだろうか。
快く見送るか、離縁するか……それはどちらを選んでも愛する伊東とは共に居られない。その心中は穏やかではないだろう。選ぶ余地があるように見えて、無いに等しい。
いと思った。artas植髮 心は既に志へと向かっているのに、妻に選択をさせる。涙を飲んで送り出した妻の、精一杯考えた苦肉のを狂言だと言い捨てる。
置いていかれる者の気持ちを考えたことがあるのか、と桜司郎は叫びたかった。
だが、大切な者を犠牲にしてでも志を遂げたい伊東の気持ちも分かるのだ。
桜司郎は左胸の刻印に手を当てて、目を固く瞑る。""とのしての自分、そして桜之丞の薄らとした記憶が胸の中でせめぎ合う。
置いていかれる辛さ、置いていくことの辛さを知っているからこそだ。
桜司郎は顔の前で手を重ねると、寝ながらる。そして彼女達の心中を思いながら、涙を流した。
──この時代の女子って何なのだろう。ただ愛する人と共にいたいだけなのに、それすら叶わない。それでも生きるために、前を向いて歩まなければいけないなんて。何と残酷で儚い世界なのだ。
それでも行く末をこの目で見てみたい。その気持ちは変わらなかった。
土方と伊東の声が遠くに聞こえる。やがて重い瞼を閉じると、右胸の刻印がチクリと疼く。頭の中が空っぽになるのと同時にたちまち懐かしい夢を見た。
藍色の着物に、艶やかな黒髪。涼し気な目元を細めて、こちらを見る男が桜の木の下に立っていた。その視線には慈しみと愛しさが含まれている。
──名前も顔も知らない筈なのに、何故そのような目で私を見るの?
ねえ、と話し掛けようと一歩踏み出したところで身体に衝撃が走った。一気に現実に引き戻される。
パチリと目を開くと、足元には土方が立っている。下戸なのにも関わらず伊東と呑んだせいで足元が
そこを行けば伊東は ずに桜司郎の足を蹴ってしまったのだろう。
「……ぁ、すまねえ、起こしちまった」
桜司郎は寝ぼけ眼を擦ると、数秒の間土方をジト目で見つめた。そして身体を起こす。
「副長……。早く寝ないと、障りますよ」
「わぁ……かってらァ。水を、飲みたくてな……」
伊東はどうしたのだ、と横を見ると既にスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。酒に強いのと弱いのとではこうも違うのかと溜息を吐くと、桜司郎は立ち上がる。
「私が取りに行きます……。その足取りで階段なんて降りたら、副長死にますから」
"大事"な夢を邪魔されたからか、桜司郎の口調はいつもより強い。土方はバツが悪そうに頷くと、促されるままに自身の布団へ座り込んだ。
桜司郎は水差しと湯のみを手に部屋へ戻ると、土方へ渡す。それを飲むと、糸が切れたように土方は横になった。 外を見れば、まだ夜明けは遠そうである。すっかり起こされてしまったと土方を恨めしげに見ると、再度布団に潜る。そして一瞬見た夢の内容をぼんやりと思い起こした。
あの