「どう、思う。あの者の申した事。」とボーンが完全に去るのを待って、ゴルゾーラはナーザレフに尋ねた「さて、私の配下の十二神将を欺いてそのような芸当が出来るものか、甚だ疑わしい気もしますが。第一あのボーンと申す者、宰相ラシャレーの息の掛かった者ではありませんか。ラシャレーは汚れの乙女エレナの誅伐にはあくまで反対。すれば、あの者の申すことも額面通りには受け取れませんよ。敵方の力を強大に見せる事によって、あわよくば太子とエレナの衝突を回避しようという芝居かも知れません。現にこの期に至って、ゲッソリナ侵攻の再検討を促すような発言をしたではないですか。」「余には、あの者の申す事は理に適うようにも思えたが。」「太子、惑ってはなりません。太子も仰られたでは有りませんか。兵力差で押して行けば勝つに決まっていると。神の御心もそうでありましょう。それに私がゲッソリナに送り込んでいる間者からの情報ではそのような謀略を王女軍が巡らせている気配はありません。」「さっき名の出たイザベラについては。」「私の把握し 英文故事書 ているところでは、王女軍の中で軍医のような事をしている者と聞いてます。後は王女の話相手だと。」(王女の話相手・・・・・・。とすれば、暗殺に失敗した殺し屋ドルフと同一人という事は有り得ないだろう。暗殺されかかった者とその標的が結び付くなど三文芝居なら兎も角・・・・・・。ボーンという者の言う事も完全には信じられんな。)「この際諫言いたしますが、ゲッソリナから解雇されて我が方に加わった二万の兵士の中に敵方の密命を帯びて入り込んで来た者がいないとも限りません。自分としては拙速にゲッソリナに進発する事無く、善く善く自軍を固め直すべきだと考えます。」「ふむ、諫言心に留め置く。ご苦労でた。」ゴルゾーラは辛うじてそう答え、ボーンを下がらせた。十二神将メキーラと連んでいるウージは殺し屋ドルフとドルフとイザベラが同一人である事を知っていたが、ナーザレフやゴルゾーラまでその情報は届いていないようである。又、宰相ラシャレーからもイザベラに関する情報は太子ゴルゾーラには伝えられていなかった。ゴルゾーラはまさか殺し殺され合った二人がそれ故にこそ強く結びついてしまったとまでは思い至らず、逆にボーンに疑念を懐いてしまった。「ともかく、早急にモスカを見つけ出し捕らえよ。」ゴルゾーラはナーザレフに命じた。ボルマンスクでは貴族達に属する兵力を除く十二万の兵士が宮殿付近で、依然編成中で
あり、装備や糧食も調達中であった。実に七師団と三連隊の大軍勢である。タゴロローム守備軍の説明の際に述べたが、ゴロデリア王国の軍編成は五を基調にしている。ボルマンスクの部隊編成もそれに従っている。一連隊は三千百二十五人、一師団は五個連隊である。ボルマンスクの当初の兵力は三万であった。それが、急募に次ぐ急募により十万となり、更に十二万に膨らんでいる。圧倒的兵力差の優位を太子側は持っているが、一方で王女討伐や宰相投獄に疑念を禁じ得ない兵士将校も少なくない。太子ゴルゾーラは意外に部隊編成に苦しんでもいた。何しろ、兵士数の膨張がなまじ速や過ぎた事もあって、人事配置の急変を繰り返した。全軍掌握出来ているかどうか万全の自信が湧かないのである。大軍を要するが為の悩みでもあった。 五日後の朝、太子ゴルゾーラは貴族の取り纏め役ノーバーを再び呼んだ。
1. 無題