に残るか、俺と来るか」
その問いに桜司郎は軽く驚く。実家には流石に着いて行けないかと思っていた。かと言って、此処に居続けるのも居心地が良くない。何処か宿を取って引き篭ろうと思っていた矢先だった。
「ご、ご実家にお邪魔するなんて迷惑では無いですか」
「いや、別に迷惑じゃねえよ。yaz避孕藥 よく試衛館の連中も来ていたしな。おい、斎藤。お前は実家に帰るか?」
それに斎藤は小さく首を横に振る。彼には誰にも言えぬ実家には戻らない理由があった。それに特段恋しいと思うこともない。それだけの覚悟を持って実家を出たのだ。
「何だよ、それなら皆揃って俺の実家へ行こうぜ」
土方はくつくつと笑うと、さっさと荷物を手にする。そしてまた来る旨をツネと周斎へ伝えると、試衛館を出た。土方の実家は多摩の石田村というところにあった。石田村と試衛館を往復しようとすれば半日はかかる程の距離がある。
春の景色を楽しみながら歩けるから良いものの、これが夏だったら行き倒れているかも知れないと桜司郎は肩を竦めた。
とはいえ、疲労の色は徐々に濃くなる。足を引っ張る訳には行かないという意地だけで歩いていた。
土方は桜司郎を横目で見る。桜司郎の足取りの重さに気付いていたのだ。いつ根をあげるかと見ていたが、江戸の男らしく意地っ張りなところがあるものだと口角を上げる。
「おい、そこの茶屋で一休みしようぜ。喉が乾いた」
土方はそう言うと、少し先に暖簾を出している茶屋を指さした。斎藤は無言で頷き、桜司郎はみるみる表情を明るくする。
土方は苦笑いを浮かべると、先頭に立って暖簾を潜った。
茶と餅がそれぞれ運ばれてくる。軒先の な光景を眺めた。
「懐かしいな、よくこの道を薬箱と木刀を背負って若い頃は往復したもんさ」
土方は茶を啜ると、懐かしそうに目を細める。その視線の先には若返りし自身の姿が映っていた。
家業である"石田散薬"の行商がてら、道場破りや試衛館での稽古に励んでいたのである。
──あの頃は、まさか自分が憧れていた武士になれるなんて思いもしなかった。
「薬箱と木刀って……不思議な組み合わせですね」
桜司郎が首を傾げると、斎藤がフッと口元を緩める。
「俺は直接見た訳ではないが。対戦相手をボコボコにして、怪我や打ち身によく効く薬だと売り付けたと聞いた」
そう言われ、土方はバツが悪そうにそっぽを向いた。腕試しにもなり、良い行商相手にもなり一石二鳥だったのではないか。荒々しいが、土方には商才がある気がすると桜司郎は感心した。
「偉そうな口利いておきながら、アイツらが弱ェのがいけねえよ」
「……ですが、そんな貴方ももう泣く子も黙る新撰組の副長だ。ご実家も誇らしいでしょう」
斎藤の打算のない言葉に照れ臭くなったのか、土方は無言のまま耳を赤くする。喧嘩や女との痴情のもつれ等の決して良いとは言えない揉め事ばかり起こして来たが、やっと遅咲きながらも胸を張って実家へ帰れるようになったのだ。
土方の胸に感慨深さがじわじわと滲みつつも、これ以上褒められるのは居心地が悪い、と土方は茶を飲み干し立ち上がる。
「よ、余計なことくっちゃべってると、日が暮れちまうぜ。早く行くぞ」
その様子を見た斎藤と桜司郎は目を合わせ、意味ありげに笑った。
桜司郎の中にあった緊張と畏れも、疲れと共に解れていく。
再度歩みを進めていると、土方が口を開いた。
「おい、斎藤は分かっていると思うが。鈴木は姉の"とく"には気を付けろよ。やたらと勘が鋭いンだ。嘘も