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Yuji's Blog

一方で、桜司郎は

 一方で、桜司郎は布団の中で暗い表情をしていた。これまで見てきた数々の女達の涙を思い浮かべる。久坂を愛した妓、明里、琴、歌──

 

 ウメのことはよく知らないが、それでも同じ性を持つ者としてはその思いが理解出来た。愛する人の身を案じ、自身の思いを押さえ付けて送り出した心。突然上洛の話しを聞かされた時は、どれほど辛かったのだろうか。

快く見送るか、離縁するか……それはどちらを選んでも愛する伊東とは共に居られない。その心中は穏やかではないだろう。選ぶ余地があるように見えて、無いに等しい。

 

いと思った。artas植髮 心は既に志へと向かっているのに、妻に選択をさせる。涙を飲んで送り出した妻の、精一杯考えた苦肉のを狂言だと言い捨てる。

置いていかれる者の気持ちを考えたことがあるのか、と桜司郎は叫びたかった。

 

 

 だが、大切な者を犠牲にしてでも志を遂げたい伊東の気持ちも分かるのだ。

 

 桜司郎は左胸の刻印に手を当てて、目を固く瞑る。""とのしての自分、そして桜之丞の薄らとした記憶が胸の中でせめぎ合う。

置いていかれる辛さ、置いていくことの辛さを知っているからこそだ。

 

 

 桜司郎は顔の前で手を重ねると、寝ながらる。そして彼女達の心中を思いながら、涙を流した。

 

──この時代の女子って何なのだろう。ただ愛する人と共にいたいだけなのに、それすら叶わない。それでも生きるために、前を向いて歩まなければいけないなんて。何と残酷で儚い世界なのだ。

 

 それでも行く末をこの目で見てみたい。その気持ちは変わらなかった。

 

 

 土方と伊東の声が遠くに聞こえる。やがて重い瞼を閉じると、右胸の刻印がチクリと疼く。頭の中が空っぽになるのと同時にたちまち懐かしい夢を見た。

 

 

 

 藍色の着物に、艶やかな黒髪。涼し気な目元を細めて、こちらを見る男が桜の木の下に立っていた。その視線には慈しみと愛しさが含まれている。

 

──名前も顔も知らない筈なのに、何故そのような目で私を見るの?

 

 

 ねえ、と話し掛けようと一歩踏み出したところで身体に衝撃が走った。一気に現実に引き戻される。

 

 パチリと目を開くと、足元には土方が立っている。下戸なのにも関わらず伊東と呑んだせいで足元が

 そこを行けば伊東は ずに桜司郎の足を蹴ってしまったのだろう。

 

 

「……ぁ、すまねえ、起こしちまった」

 

 桜司郎は寝ぼけ眼を擦ると、数秒の間土方をジト目で見つめた。そして身体を起こす。

 

 

「副長……。早く寝ないと、障りますよ」

 

「わぁ……かってらァ。水を、飲みたくてな……」

 

 伊東はどうしたのだ、と横を見ると既にスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。酒に強いのと弱いのとではこうも違うのかと溜息を吐くと、桜司郎は立ち上がる。

 

「私が取りに行きます……。その足取りで階段なんて降りたら、副長死にますから」

 

 "大事"な夢を邪魔されたからか、桜司郎の口調はいつもより強い。土方はバツが悪そうに頷くと、促されるままに自身の布団へ座り込んだ。

 

 桜司郎は水差しと湯のみを手に部屋へ戻ると、土方へ渡す。それを飲むと、糸が切れたように土方は横になった。 外を見れば、まだ夜明けは遠そうである。すっかり起こされてしまったと土方を恨めしげに見ると、再度布団に潜る。そして一瞬見た夢の内容をぼんやりと思い起こした。

 

 あの

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