「…そうだ、貴方も江戸へ来れば良いのですよ。この私が局長へ頼めばきっと了承されます!」
普段から近藤の太鼓持ちをしているため、近藤に気に入られている自覚がある。
その為、頼み込めばそれを聞き届けて貰えると考えていた。
助けを求めるように、Botox 去皺 周りを見渡す。すると、通り掛かった馬越と目が合った。馬越はふい、と目を逸らし駆けていってしまう。
「行きませんって…。やめて下さい!」
桜花は渾身の力を込めて武田を払い除けた。その際に武田の手に爪が当たり、一筋の薄い線を作る。
武田はそれを見ると、べろりと舐めた。そして冷ややかな視線を桜花へ向ける。
「貴方…身分は?立派な刀を持っているようだが…下働きをしている以上、武士では無いでしょうね」
「それが…どうなんですか」
「…記憶が無いという話だから、教えて差し上げる。町民が武士に無礼を働いたら、無礼討ちをしても良いんですよ」
武田はそう言うとニヤリと笑った。桜花は目を見開く。
そんな横暴が許されて良いのか、と思ったその時だった。ぴしゃりという小気味良い音と共に頬が熱くなる。
ジン…と右頬に痛みが走った。
「…身の程を弁えなさいな。副長助勤のこの武田が、下働きの貴方に目を掛けてやろうと言っているんですよ」
悔しさと恐怖で桜花は二の句が告げなくなる。
それを見た武田はふん、と鼻を鳴らした。
藤堂や斎藤、沖田も好みの顔をしているが、同じ立場である上に江戸出身で贔屓をされているため、手が出せない。やはり立場の低く気の弱い男が一番だ…。
そんな事を考えながら、武田は桜花へ近付く。
「や…やめて下さい」
「…まだ己の立場を理解していないようだな。私を怒らせるとどうなるか…試してみるか?」
低い声でそう言えば、桜花は更に身を固くした。
そこへ足音が近付いて来ることに武田は気付く。舌打ちをすると、素早く桜花から距離を離した。「鈴さん、こんなところに居ったんか〜!って武田さん、お取り込み中やったか?」
現れたのは松原と斎藤である。松原の坊主頭に太陽が差し込み、まるで仏のようだ。
「…何でも有りませんよ。離れ離れになってしまいますので、挨拶を…とね。そうでしょう、鈴木君…?」
武田は侮蔑の篭った視線を桜花に向ける。桜花は小さく頷いた。
武田はそのまま踵を返して去っていく。
気が抜けた桜花は座り込んでしまいそうになるが、何とか堪えた。
「鈴さん、大丈夫か。馬越に教えてもろたんや。何かされたか?」
あの時馬越は逃げたのではなく、対処をしてくれそうな上役を呼んでくれたのだと理解する。
「あ、りがとう…ございます…」
斎藤は桜花に近付くと、そっと手を伸ばした。桜花はびくりと目を瞑って顔を逸らす。夏だと云うのに冷たい手が右頬に触れた。
「頬…、腫れているが。叩かれたのか」
武田が去ったことを確認してから、その質問にそっと頷く。
松原と斎藤は顔を見合わせた。
「大方、思い通りにならぬと手を上げたのだろう。良ければ我々から副長へ報告しておくが」
その申し出に、桜花は首を横に振る。
何故ならと言うと、それは注意を受けるくらいで根本的な解決にはならないからだ。
むしろ逆恨みをされる可能性の方が高い。
「…油断していた私が悪いので。次からは二人にならないようにします」
「ほんまに大丈夫なんか。脅されてへんか?」
松原や斎藤と言えども、あの手の人物は下手に敵に回すと厄介だろう。
上司にはゴマをすり、部下や身分の低い者には玩具のように扱う。
「…はい。私も